リモート連句の場
第四回猫蓑会リモート
二十韻「血を吐く喉の」
鈴木了斎 捌
- かなかなに血を吐く喉のなかりけり
- 了斎
- 軽やかに舞ふ踊り子の群
- 有子
- 月光を綾絹のごと纏ふらん
- 桃胡
- 塩は何でも薄いのがいい
- 暁巳
ウ
- いつのまにトマトが赤くなつてきて
- 志保子
- 好いた男へミサンガを編み
- 巳
- 大き目を見開いてゐる孤児の恋
- 胡
- うづくまりつつ己が膝抱く
- 斎
- 五十年同じ鞄を使ひをり
- 有
- ラッシュアワーの今日も変はらず
- 志
ナオ
- 宇宙ではハヤブサがイトカワへ飛ぶ
- 仝
- 漫画雑誌の立読みが趣味
- 巳
- 着ぶくれの娘が蒸した中華饅
- 胡
- セーター脱がす間さへもどかし
- 斎
- 逢引は鎮守の杜の雪月夜
- 志
- 何の鳥だか鳥の啼く声
- 有
ナウ
- 本棚に誰も開かぬ百科辞書
- 巳
- なんまいだぶですべて済ませる
- 斎
- 尼の住む低き庵に花の雨
- 巳
- 種井(たねゐ)に水の満ちてくるころ
- 志
連衆 佐々木有子 裏谷桃胡 島村暁巳 北龍(きたきみ)志保子
二十韻「秋を漕ぐ」
鈴木千惠子 捌
- 自転車のサドルを上げて秋を漕ぐ
- 千惠子
- 薄月浮かぶ萩潜る先
- 鄭和
- 初猟に気持ち高ぶる犬のゐて
- あき子
- くつきり残る土間の足跡
- 仮名
ウ
- 婚礼の後片付けは皆をなご
- 和
- セクハラも駄目モラハラも駄目
- 千
- 先輩の電話番号消しかねて
- 名
- 苦さこらへて飲む正露丸
- あ
- シロップは七色混じるかき氷
- 千
- 赤門傍に葦簀茶屋あり
- 和
ナオ
- 遠見には潮風はらむ帆引舟
- あ
- いたづらつ子のイルカはぐれる
- 名
- ご贔屓の旦那酒断ち願を掛け
- 和
- 線香一本燃え尽す恋
- 千
- 思ひ出す君と見あげし夏の月
- 名
- 野外演奏ジャズとコーヒー
- あ
ナウ
- Tシャツにオリジナルロゴ染め抜いて
- 千
- 蝶の群がる山裾の道
- 和
- ご無沙汰を詫びて筆とる花便り
- あ
- 眠気覚ましにしじみ汁吸ふ
- 名
連衆 髙山鄭和 岩崎あき子 佐藤仮名
二十韻「涼新た」
佐藤徹心 捌
- 涼新た干したシーツの陽の匂ひ
- 徹心
- 月の光が包み込む夢
- をんみ
- 舷窓に高潮の波打ちよせて
- 転石
- 地域猫来て魚むしやむしや
- 未悠
ウ
- 席替のたびにあの子に近くなる
- 香織
- やぼな世間に道行の真似
- 蝸舎
- 脇見して信号無視の青切符
- を
- 山小屋はまだ先の尾根筋
- 石
- 焼跡に帰化植物が繁茂する
- 織
- 進駐軍はパイプ吹かして
- 石
ナオ
- 聖歌隊ボーイソプラノのびやかに
- 織
- 詩人とつつくけとばしの鍋
- 舎
- 青森の楽しみ雪と月と酒
- 悠
- 母親譲り舌を出すのも
- 織
- 寺参りめざす美形のあの尼僧
- 悠
- 魔物も逃げる恋の煩悩
- を
ナウ
- トランプの一人ゲームを繰り返す
- 織
- サラダ菜食べるテーブルの白
- 舎
- 機関車は隧道抜けて花の中
- 悠
- 鰊曇りの北国の空
- 石
連衆 福澤をんみ 林転石 棚町未悠 平林香織 岩田蝸舎
二十韻「五輪果つ」
近藤純子 捌
- 五輪果つ悲喜こもごもに荻の風
- 健
- 安堵の頬を照らす月光
- 良子
- 唐黍を箱いつぱいに送られて
- 聰
- 枠をはみ出し笑まふ幼な児
- 一枝
ウ
- 高々とドローンの飛び彼方へと
- 功
- 病院混乱頼むウーバー
- 純子
- 惚れすぎて時を盗みて接吻す
- 功
- 夫婦茶碗の欠の金継
- 枝
- キンと鳴る不協和音も産みの種
- 功
- 手元狂つて消えた跳炭
- 健
ナオ
- 白鳥の舞を飽かずに眺めをり
- 良
- 荒れのやまないオホーツク海
- 仝
- いつしかに神居古潭は人気なく
- 聰
- めまとひ払ふ工房の窓
- 枝
- 月の下「死神」咄す夏の寄席
- 功
- 阿保やなーとは好きといふこと
- 良
ナウ
- 騙された振りを通して半世紀
- 聰
- 葷酒山門入れば囀
- 健
- 奏楽の獅子花の宴彩りて
- 純
- 思ひのままに揺らす鞦韆
- 聰
連衆 由井健 本屋良子 杉本聰 西田一枝 松本功
歌仙「那須の宿」
功刀太郎 捌
- 蜩の鳴きつくしてや那須の宿
- 酔山
- かの怪石に秋の初風
- 濤声
- 会社退けビルの伱間に月出て
- 円水
- 缶コーヒーでほつとひと息
- 敦子
- 船員の客が港の散髪屋
- 太郎
- 帰省子嬉し生家への道
- 山
ウ
- 夏料理地元野菜のふんだんに
- 声
- YouTube見て習ふフレンチ
- 水
- 所在なくカード占ひ独りして
- 敦
- いつも頭にあの人は今
- 太
- 涙して酒飲む女気にかかり
- 山
- トランペットのジャズのクールさ
- 声
- 但さまの火の用心の声遠く
- 水
- 年越祓大杉の月
- 敦
- 虫食ひの延喜式なる稀覯本
- 太
- 母校野球部やつと一勝
- 山
- 先輩は苦労したれど花の宴
- 声
- 土手の散歩に初雲雀揚ぐ
- 水
ナオ
- 春コート諸事片付きて身も軽く
- 敦
- 曽良の日記の齟齬が解けたり
- 太
- 今すぐに入院せよと担当医
- 山
- 勧誘しきり投資信託
- 声
- 口裂けがお化け屋敷の呼込に
- 水
- 隣家の婦人整形の夏
- 敦
- 君の手をとり持ち上げて岩登り
- 太
- 出張帰り夫懐かし
- 山
- うかうかと秘密結社にかかはつて
- 声
- 人形供養いつも受け付け
- 水
- 眉月の軒に懸りて針仕事
- 太
- 蔦紅葉佳き丘の教会
- 敦
ナウ
- 落鮎を狙ひ仲間と竿みがく
- 山
- 自慢話はほどほどにせよ
- 声
- アイドルはアヒルの口を得意芸
- 水
- アクション映画山場迎へて
- 敦
- 花守のこころ打たるる仕事ぶり
- 山
- ひねもす遊ぶ摘草の原
- 太
連衆 吉田酔山 小原濤声 植田円水 武井敦子