令和5年12月9日(土)

第十八回猫蓑会リモート

二十韻「筆塚の」

由井健 捌
筆塚の穂先に宿る冬日かな
紅を滲ませ年の梅咲く
千惠子
薄茶席師匠の点前の嫋やかに
ゆう子
可愛い顔のお澄ましの子等
敏枝
行水を終へて盥に浮かぶ月
揃ひの浴衣着ての銀ブラ
そつと肩抱きシャンソンに聴き入りて
そ知らぬ振りで過ぎる黒猫
峰々を回峰行の草鞋ばき
オーバードーズ夢の境地へ
ナオ
掛け軸の妖怪変化踊りだし
打つた白球軽く場外
渾身のプロポーズ決めVサイン
ヴィンテージ汲み夜長睦みて
満月の金波銀波に舟を出す
何を置いてもまづ秋祭
ナウ
寅さんが長口上の啖呵売
インバウンドの並ぶ団子屋
ビル街のからくり時計花ふぶく
里の便りに鰊来たとか
連衆 鈴木千惠子 夷藤ゆう子 箭内敏枝

二十韻「厚着して」

佐藤徹心 捌
厚着して三人掛けの中の席
徹心
歳末セール音響の渦
あき子
ピアニスト指を大事に守りゐて
多紀子
駆けだしていく登校の子等
志保子
留学へ見送る月の滑走路
涙を誘ふ秋の夕焼
ブランデー栗のグラッセゆつくりと
暴れ馬追ふ馬子赤ら顔
ころころと乙女心はよく変はる
ピンクの付箋ハートいつぱい
ナオ
交差点肩触合つて目眩する
浴衣まとつて行く彼の部屋
窓越しにスカイツリーと夏の月
鼠小僧の墓石欠き取る
倫敦の城へそくりで買ふ夢を
アビーロードに甦る歌
ナウ
令和にも生き延びているサユリスト
おたまじやくしを掬ふ沼の辺
風のまま膨れ崩れる花筏
甘味処の午後のうららか
連衆 岩崎あき子 今井多紀子 北龍志保子

短歌行「枇杷の花」

西田荷夕 捌
枇杷の花ひと日ひと日を慈しみ
荷夕
空をめざして尖る雪吊
了斎
城下町区割りの線の美しく
迷子の猫を探す貼り紙
あづさ
月の夜に深まる謎を追ふ刑事
ゲノム情報漏れてすさまじ
どこまでが元の顔やら菊枕
ふたりしつぽり飴色の時
帽子だけ転がる無言劇の後
そよろそよろと風のたはむれ
屋形舟やれこの盃に花片を
蓬の餅を二つ頬ばる
ナオ
南画にはのどかな仏在します
閉架にひそと下賜の巻物
ガラクタをお宝ですとMCに
蝶ネクタイが右に傾き
膠着の家族会議へ夏の月
おいらの恋はいつも汗だく
十人のをとこ飲み込み九人捨て
食後の薬またも忘れる
ナウ
知らぬ間にジキルとハイド入れ替はり
幼友達いまは大臣
汽罐車が万朶の花の橋を行く
春蚕かさりと微睡の中
連衆 鈴木了斎 石川葵 清水あづさ

半歌仙「叡山の」の巻

本屋良子 捌
叡山の奥の出といふ冬の虹
良子
大歳近き湖の漣
鄭和
ゴルファーのクラブ選びのきりもなし
香織
父と一緒にテレビ観戦
揺子
射し込める月影届く黒書院
乱るる萩を壺に活け込み
楊貴妃をめざし糸瓜の水を採る
イケメン医師に通ふ診察
戦争よりキスは強いと嘯いて
僧は黙して何も語らず
鳥獣戯画甲乙丙巻公開中
夏の霜分け仮面ライダー
蛍を追うて本州縦断す
太麺が好き北の拉麺
長兄は人の意見を聞かぬたち
胡弓に乗せて踊る島唄
車座に酒酌み交はす花のもと
暮れ遅き日は猫と縁側
連衆 髙山鄭和 平林香織 上原揺子