リモート連句の場
第十五回猫蓑会リモート
短歌行「朱夏の踝」
西田荷夕 捌
- 汀線を朱夏の踝跳ねて行く
- 荷夕
- 浜昼顔の背伸びする群
- 桜千子
- 建築のコンペティションに応募して
- 祐介
- 谷間に見ゆるつつましき屋根
- 敏枝
ウ
- 凍月を背に牧童の声はやり
- 純子
- 太腹(ふとはら)鱸シチュー仕立てに
- 夕
- 飲める酒飲めぬふりしてしなだれる
- 桜
- 三文芝居もれる溜息
- 祐
- 医者も言ふ恋わづらひに打つ手無し
- 枝
- 捨てる基準は消費期限か
- 純
- 花の下ボンネットバス停まります
- 桜
- 霞棚引く故郷はまほろば
- 夕
ナオ
- 振り向けば石落つるごと告天子
- 祐
- 砂場に残るシャベルぽつねん
- 枝
- 見習ひのパティシエ今日もだめ出しを
- 純
- 国際会議同時通訳
- 夕
- 瞬殺は罪に問はれぬはずだけど
- 桜
- 浅茅の径をいつかふたりで
- 祐
- 抱き合うて金波銀波の月の湖
- 枝
- 木の実降らせる魔女のひと振り
- 純
ナウ
- 平岡翁※トレモロの曲軽快に
- 夕
- 此処がよいのと膝で寝る猫
- 桜
- いつの日も花の隣は空けてある
- 祐
- 旧友を訪ふ清明の朝
- 枝
連衆 鵜飼佐知子 和田祐介 箭内敏枝 近藤純子
※木琴奏者 平岡養一(1907 〜1981)
※木琴奏者 平岡養一(1907 〜1981)
半歌仙「水の構図」
本屋良子 捌
- ほうたるに水の構図の変りけり
- 良子
- 何か潜める河骨の岸
- 香織
- 楽隠居コンピューターを操作して
- 蝸舎
- 赤い付箋をはさむ新刊
- 照子
- 銭湯の三角屋根に月皓と
- 織
- 後の袷をかき合はす叔母
- 良
ウ
- 美術展エゴンシーレに対峙する
- 照
- 気の狂ひたるお七あはれの
- 蝸
- 思はぬと思へど勝る君の影
- 良
- ちびた鉛筆ずらり並べて
- 織
- 土俵入り待つ間の力士深呼吸
- 蝸
- 寒月の下馬乳酒の宴
- 照
- 冬枯の野をまつすぐに貨車の行く
- 織
- 木乃伊の瞳どこを見やるや
- 良
- 国籍をZ世代はひよいと越え
- 照
- 団子食ひつつ英文を読む
- 蝸
- 花の下うつらうつらと午後の色
- 仝
- 晴天高く上る風船
- 照
連衆 平林香織 岩田蝸舎 五郎丸照子
半歌仙「榧の樹影」
佐藤徹心 捌
- 五月雨や榧の樹影の揺れもせず
- 徹心
- 階に沿ひ十薬の花
- あき子
- エチュードを姉妹連弾軽やかに
- 志保子
- 居間の奥から仔犬駆け来る
- 鄭和
- いざよひの招く湖畔に椅子並べ
- あ
- 先急かされるやや寒の坂
- 心
ウ
- 母と娘が揃ひの衣装ハロウィーン
- 和
- いつも薄荷糖ボンボニエール
- 志
- 湯治場の土産のこけし澄ましてる
- 心
- 幼なじみが妙にきれいに
- あ
- 握つた手薬指には真珠玉
- 志
- 一番銛の肩に昼月
- 和
- 悴んで刺子あはせの剣道着
- あ
- しはがれ声を酒でうるほす
- 心
- 神前に畏まりたる権の祢宜
- 和
- バックパッカーうららかに行く
- あ
- 木漏れ日の野点の席に飛花落花
- 志
- 川辺に憩ふ春の夢たち
- 和
連衆 岩崎あき子 北龍志保子 髙山鄭和
二十韻「青葉風」
鈴木千惠子 捌
- 全身で呼吸してみる青葉風
- 千惠子
- 石榴の花のはや孕みをり
- 了斎
- 厩舎には出走を待つ馬のゐて
- 転石
- 毛布かかへて落ち着かぬ膝
- 房子
ウ
- 滑つてはいけない坂の雪月夜
- 斎
- 祖父の葬儀にいとこはとこも
- 千
- 百年のパイプオルガン鳴り渡る
- 房
- 夫君したがへ女王おごそか
- 石
- 天蓋の下でやさしき口づけを
- 千
- ランプこすれば現れる奴
- 斎
ナオ
- こそこそと債鬼の影におびえつつ
- 石
- 暗証番号盗みとられる
- 房
- のんびりと暮らす縄文村の秋
- 斎
- 落栗拾ふ兄と弟
- 千
- 月に棲む兎が婆のお話に
- 房
- 鉄砲抱いて酒を酌み合ふ
- 石
ナウ
- ご維新の志士は紙幣の顔となり
- 千
- 人も動いてゐる蜃気楼
- 斎
- 花守がしつかと支へ花大樹
- 石
- つい鼻歌の混じるのどけさ
- 房
連衆 鈴木了斎 林転石 室房子