令和4年4月9日(土)

第八回猫蓑会リモート

二十韻「大楠の風」

岩崎あき子 捌
清明や大楠の風軽やかに
あき子
弥生野よぎる自転車の列
酔山
宿題の巣箱づくりに励むらん
武将の名にて漢字覚える
純子
毛皮着て月の銀座をナイスガイ
凍てる張込み億ションの外
思ひ切り嫉妬に狂ひ平手打ち
有無をいはせぬ熱き口づけ
空缶を蹴飛ばし子らのまつしぐら
箒離さぬ若き権禰宜
ナオ
ときをりに声はり上ぐる仏法僧
炎暑の中の長期派遣を
痒いとこ掻いて欲しいと誘惑し
秋の簾に透ける刺青
月今宵三種の酒を飲みくらべ
匂ひただよふ母の栗飯
ナウ
離島までドローン使ひ配達し
診療所では猫が院長
村史には平家伝説花万朶
夢語り合ふうららかな午後
連衆 吉田酔山 杉本聡 近藤純子

二十韻「関東平野」

武井雅子 捌
清明や関東平野一望す
雅子
かぎろひの中昇る炊煙
了斎
春挽の筬(をさ)打つ音の軽やかに
良子
角を曲がればなびくスカーフ
揺子
街並の影のぎざぎざ夏の月
玉めいて忘られぬ肌
笑まひつつ婚約指輪かざし見る
マリアの在す絵硝子の中
国境に足止めを食ふ避難民
訛の変なやつもちらほら
ナオ
ここへきて終相場は荒れ模様
電光掲示GOと点滅
あとすこしあなたの乗つた便が来る
新酒交はして火照る早暁
残月をいついつまでも仰ぎつつ
歌女鳴く声に耳を傾け
ナウ
父母は故郷に居て息災で
仲よささうな道の神様
漂へる光となりて花吹雪
子等の遊べる園のうららか
連衆 鈴木了斎 本屋良子 上原揺子(ゆりいこ)

二十韻「桃の紅」

西田荷夕 捌
遠景に桃の紅確とあり
荷夕
影の揺らめく畦塗りの人
鄭和
巣籠りの鳥やあるらん聞こえきて
転石
エルボーパッチ少し擦り切れ
未悠
冬の霧ワトソン君の肩に月
納めの弥撒に人妻の君
傭兵は涙隠して国許へ
砂漠の果てに追へる俤
トラックに援助食糧積み込んで
ガラパゴスから減つた陸亀
ナオ
海底の鉱床を掘る探査行
お化け屋敷で幽霊の役
仕送りの絶えて久しき四畳半
秘密の逢瀬紅葉踏み分け
月円か太極拳をふたりして
翡翠の盃に酌んで漸寒
ナウ
永年の持病に輸入アンプル剤
横文字読めぬことは内緒に
花の雲長き架け橋覆ひける
風船をつきやまぬ子供ら
連衆 高山鄭和 林転石 棚町未悠

二十韻「幼年の空」

鈴木千惠子 捌
ぶらんこや幼年の空高かりき
千惠子
つはぶき群れてリズム取るかに
敏枝
親猫と仔猫との戯れ切りもなし
留学生に和菓子振る舞ふ
美智子
月凍つるフード目深に帰る道
志保子
念仏の声冬安居なり
駆落ちを涙ながらに頼まれる
重い財布に揺れる尻軽
夢に見た豪華客船乗り込んで
正体不明流行るウイルス
ナオ
ゲルニカの絵に乾杯のビール干す
氷いちごで口が真つ赤に
厚化粧してゐる女性専用車
銀座のママが拾ふ銀杏
残月に二人の影のよりそひぬ
在の案山子は伏し目がちにて
ナウ
椀盛の蒸し蓮根に餡を掛け
池辺に立てば鯉の寄り来る
花に吹けブラスバンドの長き列
メーデーを行く帽子いろいろ
執筆
連衆 箭内敏枝 由井健聖 成美智子 北龍志保子