令和3年10月9日(土)

第五回猫蓑会リモート

二十韻「草よりほそき」

鈴木了斎 捌
長月や草よりほそき草の影
了斎
文机浄め十三夜待つ
敦子
さはやかにへのへのもへじ描きゐて
たけを
座りまた起ち走る子供等
太郎
空瓶のころり転がる納屋の奥
蛇と鼠の永き因縁
夏シャツの胸の高さに魅了され
鏡合せのやうな相性
どうしても金庫の鍵を開けられぬ
震へ止まらず咳も止まらず
ナオ
厳かに聖燭祭の歌流れ
何につけても酒を飲む奴
ささやかなたつきなれども旅に出て
拾ひ集むるそのかみの恋
豪邸の嫦娥姉妹に迎へられ
鉄条網に鵙の早贄
ナウ
銃声の時折響く末枯野
天気予報を無視と決め込む
今日の日は花の降るまま浴びるまま
蛤汁に暮れてゆく海
連衆 武井敦子 山中たけを 功刀太郎

二十韻「涸びたる身に」

由井健 捌
名月や涸びたる身に詩ごころ
ブックポストの中に蟋蟀
今朝
理科クラブ茸採らんと山へ出て
有子
香りほのかに残る指先
純子
よろづ屋の灯だけ明るい宿場町
三世子
Uターンにて縁を戻すぞ
金継ぎをして初恋のマグカップ
漫画を読めば思ひ出す夢
海霧切れてくつきり浮かぶ遠き島
天神祭太鼓轟く
ナオ
二の膳や三の膳やら杯重ね
頑固おやぢはコペルニクス似
君子でもなけれど吾は仾変す
襖絵前にさらり脱ぎ捨て
月皓皓風花の夜の密事
勧進帳はスリル満点
勧進帳はスリル満点
ナウ
大跳躍決めて義足のオリンピアン
皆が浮かれりや猫も浮かれる
惜しげなく散り敷く花を踏みしめむ
炉塞ぎの間の神妙な顔
連衆 村井今朝 佐々木有子 近藤純子 高月三世子

二十韻「秋の蝶」

鈴木千惠子 捌
連綿のかな文字をかく秋の蝶
千惠子
グラデーションを見せる野の色
洋子
月出れば大工道具を片付けて
酔山
好みのあてで宵の一杯
蝸舎
碧眼の法被いなせに人力車
あき子
清明の術歴女迷へる
すでにもう押さへきれないこのわたし
食べ放題のホテルスイーツ
少年を集め鍛へる寒相撲
木菟の耳透明になり
ナオ
ケセラセラ誰もわからぬ明日のこと
いく度引いても御籤小吉
社長から息子の嫁に見初められ
夏の終はりが恋の終はりに
山法師の白に紛れる昼の月
教授にじやれる柴犬のポチ
ナウ
眠らない都会の人出さまざまに
地下鉄走る地上うららか
城址のお濠を巡る花筏
リュック背負ひて軟東風の中
連衆 大島洋子 吉田酔山 岩田蝸舎 岩崎あき子

二十韻「吸ふほどは」

杉本聰 捌
吸ふほどは吸はせ溢れ蚊打ちにけり
竹伐る藪に続く杣道
転石
はらからは栗名月の祝ひとて
鄭和
眠りから覚め背伸び大きく
志保子
サンディエゴ十年ぶりに訪ね来し
どちらも二人連れのどぎまぎ
歳の差をとかく噂にする世間
夏の雲雀のかん高き声
ピッケルを置きて清水を一気飲み
散り逝きし人偲ぶ石塔
ナオ
衝立の達磨大師の大きな目
この酒瓶に毒と書きおけ
寒紅を引いた途端に仾変し
窓の凍月弄るべからず
堅持する地球は回るてふことを
蘭亭帖の臨書青墨
ナウ
古伊万里をけふはこれぞと二条城
さても雨水の頃となりたり
花街道抜けて見上ぐる大鳥居
子らの呼ぶ声春の裏山
連衆 林転石 髙山鄭和 北龍志保子

二十韻「鐘の音に」

小原濤声捌 捌
鐘の音に足早になる秋の暮
をんみ
栗名月の覗く山峡
香織
対岸の竿に鰍がまた釣れて
徹心
セダンに五人やつと乗り込み
一枝
白熱の本番前のリハーサル
濤声
胸の高鳴り裏返る声
校門に隠れて渡す懸想文
商家育ちの如才ないやつ
葉桜の匂ひほのかに勘定場
蝙蝠の影空を横ぎり
ナオ
少年は鬼ごつこして大喧嘩
威厳を保つ髭はいつ剃る
お嬢様お手をどうぞと膝を折り
イケメンラガー恋のジャッカル
寒月に早く冷めたるコップ酒
総裁選に禊済ませて
ナウ
しめやかに囚人達と読書会
鶯餅をひとりたらふく
媼と翁アルバムそつと閉ぢて花
紋白蝶のふはり窓辺に
連衆 福澤をんみ 平林香織 佐藤徹心 西田一枝