令和3年6月12日(土)

第三回猫蓑会リモート

二十韻「ひとかたまりの」

鈴木了斎 捌
あぢさゐのひとかたまりのちからかな
了斎
でで虫みつけはしやぐ幼子
三世子
瞬けば飛行機雲は輪になつて
ほつと息つきほうじ茶を飲む
美智子
オーボエを誰か吹いてる夜半の秋
未悠
スーパームーン欠けはじむらし
葉月にはふたりの未来信じてた
告白の文姉が代筆
藁屋根のぽつんと残る山の裾
ころりおむすび転がつたまま
ナオ
キッチンカー始めてみたら大受けし
老いたれどなほ尽きぬアイデア
いつのまに叙勲の沙汰の見え隠れ
地味な小袖の座る炉開
咳き込んだ背なを撫でやる月の径
抱いてほしいが口に出さない
ナウ
献立にワイン付くのはそのサイン
なにはなくともきしやご常節
宇宙へと花の山から汽車に乗り
高々揚がる文字太き凧
連衆 髙月三世子 杉本聰 聖成美智子 棚町未悠

二十韻「緑陰」

功刀太郎 捌
自転車を降り緑陰の人となり
太郎
時の記念日市役所の鐘
敦子
風呂敷は蝶々結びもてなしに
あき子
晩ご飯には何を食はうか
顔立ちがエキゾチックなお月さま
いとも稚拙な捨て扇の絵
携帯の相合傘も爽やかな
離れの襖絡めあふ指
郷愁は国際便のアナウンス
ショパンの街に石畳踏む
ナオ
聳え立つ十字の塔に空つ風
御高祖頭巾へ燦々と月
精いつぱい愛することは難しい
秘めてこそなる恋の喜び
真実は小説よりも奇だと言ふ
能の奥義は一子相伝
ナウ
荒行へ向かふ背中に鑽火切り
春泥跳ねて駆ける野球部
逆しまに蜜吸ふ鳥の花万朶
盃に浮かぶは霞む峰々
暁巳
連衆 武井敦子 岩崎あき子 由井健 島村暁巳

二十韻「リモート連句」

林転石 捌
七変化飾るリモート連句かな
良子
入梅を待つ庭の静けさ
鄭和
谷戸にまで潮騒の音聞こえきて
酔山
頬をなでゆく柔らかな風
円水
満月の光を浴びる修行僧
菊人形は君によく似る
秋乾キスは私の全身に
煮汁甘めに炊いた厚揚
運悪く選挙違反が公に
たつぷり肥えて熊穴に入る
ナオ
炭俵担ぐ親但の確かな歩
演歌のこぶし利かせボサノバ
あの人と列車で向かふ幸の国
席同じうして恋の始まり
語りつぐ月の奇譚を夏の夜半
島の岬に蝙蝠は飛び
ナウ
水脈を引く定期航路のカーフェリー
眺めもよしと酒をなみなみ
黒帯を締めて出でたつ花の道
転石
ドラマの続き追うて惜春
執筆
連衆 本屋良子 髙山鄭和 吉田酔山 植田円水

二十韻「蝸牛」

近藤純子 捌
蝸牛雨をほしげに背伸びして
里美
立葵咲く丸き西窓
徹心
入念に小さきフィギュアを磨くらん
千惠子
塩豆大福すぐになくなる
一枝
月のぼり真葛が原に思ひ馳せ
蝸舎
夫婦星逢ふぬばたまの夜
純子
わが恋は猪のごとくに突進し
きれいさつぱり返す借金
餌撒けばぱつと飛びつく鯉の群
しはがれ声で選挙応援
ナオ
寒行の山の行者の透きとほる
中央高速冴え冴えと月
ミッキーの枕抱へて助手席に
オンリーユーと照れて告白
良輔
河岸に寄り添ふ影が並ぶ町
お持ち帰りの清酒一本
ナウ
風呂敷をアートの世界に取り込んで
草間彌生はいまも奔放
青空を水面に映し花筏
ふらここ揺るる午後のひととき
連衆 井上里美 佐藤徹心 鈴木千惠子 西田一枝 岩田蝸舎 北村良輔