令和3年8月9日(月)

第四回猫蓑会リモート

二十韻「血を吐く喉の」

鈴木了斎 捌
かなかなに血を吐く喉のなかりけり
了斎
軽やかに舞ふ踊り子の群
有子
月光を綾絹のごと纏ふらん
桃胡
塩は何でも薄いのがいい
暁巳
いつのまにトマトが赤くなつてきて
志保子
好いた男へミサンガを編み
大き目を見開いてゐる孤児の恋
うづくまりつつ己が膝抱く
五十年同じ鞄を使ひをり
ラッシュアワーの今日も変はらず
ナオ
宇宙ではハヤブサがイトカワへ飛ぶ
漫画雑誌の立読みが趣味
着ぶくれの娘が蒸した中華饅
セーター脱がす間さへもどかし
逢引は鎮守の杜の雪月夜
何の鳥だか鳥の啼く声
ナウ
本棚に誰も開かぬ百科辞書
なんまいだぶですべて済ませる
尼の住む低き庵に花の雨
種井(たねゐ)に水の満ちてくるころ
連衆 佐々木有子 裏谷桃胡 島村暁巳 北龍(きたきみ)志保子

二十韻「秋を漕ぐ」

鈴木千惠子 捌
自転車のサドルを上げて秋を漕ぐ
千惠子
薄月浮かぶ萩潜る先
鄭和
初猟に気持ち高ぶる犬のゐて
あき子
くつきり残る土間の足跡
仮名
婚礼の後片付けは皆をなご
セクハラも駄目モラハラも駄目
先輩の電話番号消しかねて
苦さこらへて飲む正露丸
シロップは七色混じるかき氷
赤門傍に葦簀茶屋あり
ナオ
遠見には潮風はらむ帆引舟
いたづらつ子のイルカはぐれる
ご贔屓の旦那酒断ち願を掛け
線香一本燃え尽す恋
思ひ出す君と見あげし夏の月
野外演奏ジャズとコーヒー
ナウ
Tシャツにオリジナルロゴ染め抜いて
蝶の群がる山裾の道
ご無沙汰を詫びて筆とる花便り
眠気覚ましにしじみ汁吸ふ
連衆 髙山鄭和 岩崎あき子 佐藤仮名

二十韻「涼新た」

佐藤徹心 捌
涼新た干したシーツの陽の匂ひ
徹心
月の光が包み込む夢
をんみ
舷窓に高潮の波打ちよせて
転石
地域猫来て魚むしやむしや
未悠
席替のたびにあの子に近くなる
香織
やぼな世間に道行の真似
蝸舎
脇見して信号無視の青切符
山小屋はまだ先の尾根筋
焼跡に帰化植物が繁茂する
進駐軍はパイプ吹かして
ナオ
聖歌隊ボーイソプラノのびやかに
詩人とつつくけとばしの鍋
青森の楽しみ雪と月と酒
母親譲り舌を出すのも
寺参りめざす美形のあの尼僧
魔物も逃げる恋の煩悩
ナウ
トランプの一人ゲームを繰り返す
サラダ菜食べるテーブルの白
機関車は隧道抜けて花の中
鰊曇りの北国の空
連衆 福澤をんみ 林転石 棚町未悠 平林香織 岩田蝸舎

二十韻「五輪果つ」

近藤純子 捌
五輪果つ悲喜こもごもに荻の風
安堵の頬を照らす月光
良子
唐黍を箱いつぱいに送られて
枠をはみ出し笑まふ幼な児
一枝
高々とドローンの飛び彼方へと
病院混乱頼むウーバー
純子
惚れすぎて時を盗みて接吻す
夫婦茶碗の欠の金継
キンと鳴る不協和音も産みの種
手元狂つて消えた跳炭
ナオ
白鳥の舞を飽かずに眺めをり
荒れのやまないオホーツク海
いつしかに神居古潭は人気なく
めまとひ払ふ工房の窓
月の下「死神」咄す夏の寄席
阿保やなーとは好きといふこと
ナウ
騙された振りを通して半世紀
葷酒山門入れば囀
奏楽の獅子花の宴彩りて
思ひのままに揺らす鞦韆
連衆 由井健 本屋良子 杉本聰 西田一枝 松本功

歌仙「那須の宿」

功刀太郎 捌
蜩の鳴きつくしてや那須の宿
酔山
かの怪石に秋の初風
濤声
会社退けビルの伱間に月出て
円水
缶コーヒーでほつとひと息
敦子
船員の客が港の散髪屋
太郎
帰省子嬉し生家への道
夏料理地元野菜のふんだんに
YouTube見て習ふフレンチ
所在なくカード占ひ独りして
いつも頭にあの人は今
涙して酒飲む女気にかかり
トランペットのジャズのクールさ
但さまの火の用心の声遠く
年越祓大杉の月
虫食ひの延喜式なる稀覯本
母校野球部やつと一勝
先輩は苦労したれど花の宴
土手の散歩に初雲雀揚ぐ
ナオ
春コート諸事片付きて身も軽く
曽良の日記の齟齬が解けたり
今すぐに入院せよと担当医
勧誘しきり投資信託
口裂けがお化け屋敷の呼込に
隣家の婦人整形の夏
君の手をとり持ち上げて岩登り
出張帰り夫懐かし
うかうかと秘密結社にかかはつて
人形供養いつも受け付け
眉月の軒に懸りて針仕事
蔦紅葉佳き丘の教会
ナウ
落鮎を狙ひ仲間と竿みがく
自慢話はほどほどにせよ
アイドルはアヒルの口を得意芸
アクション映画山場迎へて
花守のこころ打たるる仕事ぶり
ひねもす遊ぶ摘草の原
連衆 吉田酔山 小原濤声 植田円水 武井敦子