令和4年8月11日(木)

第十回猫蓑会リモート

二十韻「煉羊羹」

大島洋子 捌
新涼や二センチに切る煉羊羹
洋子
上がり框にるると邯鄲
桜千子
閂を外す良夜の影ならん
あき子
庁舎の前で停めるタクシー
転石
ありがとうそのひと言の距離微妙
看護師は皆笑顔可愛く
国境に帰らぬ人を待ち続け
小指の赤い糸は結ばれ
ちゃんちゃんこ背守り大き亀甲紋
冬至南瓜を馬車に見立てて
ナオ
遠出して島原巡り深呼吸
故郷の空しのぶカピタン
スマホにはロマンス詐欺のトラップが
日焼けの胸に顔を埋める
素袷の若衆漕ぐは月の舟
蔵の奥ではジャズと珈琲
ナウ
リノベーションアドリブ少しきかせつつ
うららの便り長き蘊蓄
花万朶十戸の村の花の宴
団扇作りは家族総出で
連衆 鵜飼桜千子 岩崎あき子 林転石

二十韻「飛騨の里」

鈴木千惠子 捌
秋涼し円空仏の飛騨の里
美智子
小さき祠は月影の中
徹心
朋友へ鮭の燻製手土産に
濤声
下駄を鳴らして上る坂道
言也
ゆるゆると検査結果を聞きに行き
千惠子
データ重視の恋の作戦
色の道負けに不思議の負けはなく
五線譜に書く思ひ出の曲
乾杯は布哇の浜の地麦酒で
裏返りつつ水くらげ来る
ナオ
足早に小雨小路をだらり帯
暖簾わけたらのつぺらぼうが
マスクつけGO TO EAT賑はへり
逢へない人がさらにいとしい
あなたへの艶文(つやぶみ)照らす夏の月
心もとなき蜘蛛の細糸
ナウ
パソコンの誤操作画面真つ黒に
袖たくし上げ籠にクレソン
人の手の届かぬほどの花大樹
忘れられない野遊びの午後
連衆 聖成美智子 佐藤徹心 小原濤声 吉丸言也

二十韻「風切羽を」

本屋良子 捌
二百十日風切羽を拾ひけり
良子
月上りくる古里の丘
敏枝
頂に金木犀の香りゐて
了斎
図書館へ本返し忘れる
敦子
趣味の絵が思ひもかけず入賞し
友の乗りこむパリ行の便
明滅に戦乱兆す冬銀河
盲導犬は身じろぎもせず
官僚の妻の内助の勇ましく
涙流した方が負けです
純子
ナオ
またしても私の恋は汗まみれ
いつまでも揺れ止まぬ吊り床
先づ酒と遠来の客大声で
鎌倉殿に首を斬らるる
虚無僧の尺八を聞く冬の月
泥鰌掘りにも慣れたこのごろ
ナウ
思ひ立ち新規事業の主となり
鴬餅の凹み愛らし
初花の莟めばすぐに緩む空
くねくね歩く遠足の子等
連衆 箭内敏枝 鈴木了斎 武井敦子 近藤純子

二十韻「卑弥呼の空の」

由井健 捌
稲雀卑弥呼の空の広かりし
ぼんやり浮かぶ八月の月
香織
翌日の運動会の準備して
をんみ
靴も洗ヘるクリーニング屋
鄭和
自転車で世界一周五年越
裕介
傘借りたのがそもそもの縁
睦言を聞かぬふりするブルドッグ
金継ぎの皿からつぽのまま
光琳忌墨付きの紙見当たらず
ぐつと飲み干す本場泡盛
ナオ
輪になつてかごめかごめと地蔵尊
スマートレジを採用の店
アバターの面接官が美男子で
けとばし食べる彼を食べたい
満月は冬の余情を留めをり
沁みる夜汽車で望む山稜
ナウ
榛名湖のシャッターチャンス待ち続け
若人の夢やがて芽吹くか
本舞台役者変化の花の笑
畳に映る蝶々の影
連衆 平林香織 福澤をんみ 高山鄭和 和田裕介