リモート連句の場
第七回猫蓑会リモート
二十韻「記憶てふ」
鈴木了斎 捌
- 記憶てふものふる淡き雪の降る
- 了斎
- かくれんぼせし広き梅林
- 聰
- 屋根職ら雁の帰るを仰ぎ見て
- 荷夕
- 暖簾が風に揺れる銭湯
- 健
ウ
- レモン水喉ゆく径のありありと
- 聰
- 夏の宿題終はらないまま
- 斎
- 川床に並んで月の出を待ちぬ
- 健
- ハートマークが絵馬に沢山
- 夕
- 奥社にて何か始まる神の留守
- 斎
- 念仏唱へ壺振りを待つ
- 聰
ナオ
- 虎造の大団円の唸り節
- 夕
- 背面跳びで漸くに越え
- 健
- 報せ来る幾山河を隔てつつ
- 聰
- 除隊の沙汰を許嫁へと
- 斎
- 砂糖菓子分ける月下の幼な妻
- 夕
- 後の袷がひそと質屋へ
- 健
ナウ
- 冷やかに梲(うだつ)の影の石畳
- 斎
- 公園前に止まるタクシー
- 夕
- 大鼓(おほかは)を打てばひとひら花の舞ひ
- 聰
- 朝寝朝酒遊芸三昧
- 健
連衆 杉本聰 西田荷夕 由井健
二十韻「白一色の」
鈴木千惠子 捌
- 武蔵野は白一色の春の雪
- 千惠子
- 薄紅梅の香る庭先
- 未悠
- 古本屋店主のハタキうららかに
- あき子
- みんなが並ぶ循環のバス
- 志保子
ウ
- 組み鐘の塔を満月横切つて
- 悠
- 髭面市長歩むうそ寒
- 千
- 乾杯し後はひたすら濁酒
- 志
- 誘惑される甘い吐息で
- あ
- 衣擦れの音だけのする寡婦の閨
- 千
- 地球の危機も我関せずと
- 悠
ナオ
- すいすいと夕陽ひつぱる鴨の水脈
- あ
- 外堀通りカフェの大窓
- 志
- 抱き寄せてみればロボット悲しげに
- 悠
- あなたの心少しください
- 千
- 小夜曲のかすかに響く月涼し
- 志
- 観音堂へ急ぐ階段
- あ
ナウ
- 姉君は妹の夢を買つたとか
- 千
- 懐中時計カチカチと鳴る
- 悠
- ご無沙汰をかしこみ詫びる花便り
- あ
- 紙風船を高く打ち上ぐ
- 志
連衆 棚町未悠 岩崎あき子 北龍志保子
二十韻「龍の雲」
佐々木有子 捌
- 春空に寝そべつてゐる龍の雲
- 有子
- 休校続く土手の草萌
- 濤声
- 新社員デスク回りを整理して
- 香織
- コンビニスナック試すいろいろ
- 雅子
ウ
- 月の下子ども神輿の写真撮る
- 敦子
- 日焼けの腕のぞく半纏
- 有
- 傷心の海岸通りぶつ飛ばす
- 声
- ラブコメディが拾ふ伏線
- 織
- ひよつとしたところから出る革財布
- 雅
- 過疎の村より五輪入賞
- 敦
ナオ
- 福は内鬼も内とて豆を撒き
- 有
- 風邪の服薬ほどほどにする
- 声
- ジェラシーを隠せば胸の高なつて
- 敦
- 秋の宿には甘き残り香
- 雅
- 端正の月が路地裏明るくし
- 織
- みゐでらはんめう潜む草叢
- 有
ナウ
- 酒好きがくさやの干物好きな訳
- 声
- 夢の島にて踊るダンサー
- 織
- 来し方を綴る文机花の窓
- 雅
- 囀の中自転車を漕ぐ
- 敦
連衆 小原濤声 平林香織 武井雅子 武井敦子
歌仙「練切」
近藤純子 捌
- 練切のくれなゐ滲む春の雪
- 純子
- ほの咲き初むる常磐まんさく
- 鄭和
- 雛遊年長さんがお世話して
- 暁巳
- みんなピースの写真アルバム
- 太郎
- まん丸な月懸かり来る岬口
- 和
- 流れ星追ふ静かなる夜
- 純
ウ
- 猪道を辿り尾上の松に出で
- 太
- 牧を閉ざして交はす接吻
- 巳
- 髪まとめ始発電車に手を取りて
- 純
- そつとリングをはめ直す時
- 和
- ティファニーで喰らふ朝食僕の夢
- 巳
- 城下鰈雑魚に混じつて
- 太
- 走り梅雨堰の流れを乗りきれば
- 和
- 雲の彼方に目指す山並
- 巳
- 着陸のコックピットは慌ただし
- 太
- アイロン効いたワイシャツの白
- 純
- 花衣差す手引く手に月円か
- 巳
- 八十八夜の数へ唄聞く
- 和
ナオ
- 突然に小さき胡蝶の飛び立てり
- 純
- 剣豪さつと刀納める
- 太
- 飴を買ふ子が前にゐる紙芝居
- 巳
- お代は観てのお帰りと謂ふ
- 和
- ライオンに睨まれたのがトラウマに
- 太
- 冬至湯に入りほつとする時
- 純
- 乳房には自信があるの触つたら
- 和
- 妻の寝言を夫気にする
- 太
- 関ケ原どちらにつくか大博打
- 和
- 石油の価格米ロ攻め合ふ
- 仝
- 月出でて虫の集きのなほ高し
- 太
- ぶらぶら揺らす青き瓢箪
- 和
ナウ
- 去来忌の湖の風浪身に受けて
- 巳
- 訪ふ人なしに弥陀の尊像
- 太
- それぞれの特技生かしてボランティア
- 和
- 本陣跡を守る相談
- 巳
- 石磴に歩み止めたる花吹雪
- 純
- 巣立ちの鳥のこぼれ去り行く
- 太
連衆 高山鄭和 島村暁巳 功刀太郎
令和四年二月十一日起首
同二十五日満尾(後半文音)
令和四年二月十一日起首
同二十五日満尾(後半文音)