令和4年2月11日(金)

第七回猫蓑会リモート

二十韻「記憶てふ」

鈴木了斎 捌
記憶てふものふる淡き雪の降る
了斎
かくれんぼせし広き梅林
屋根職ら雁の帰るを仰ぎ見て
荷夕
暖簾が風に揺れる銭湯
レモン水喉ゆく径のありありと
夏の宿題終はらないまま
川床に並んで月の出を待ちぬ
ハートマークが絵馬に沢山
奥社にて何か始まる神の留守
念仏唱へ壺振りを待つ
ナオ
虎造の大団円の唸り節
背面跳びで漸くに越え
報せ来る幾山河を隔てつつ
除隊の沙汰を許嫁へと
砂糖菓子分ける月下の幼な妻
後の袷がひそと質屋へ
ナウ
冷やかに梲(うだつ)の影の石畳
公園前に止まるタクシー
大鼓(おほかは)を打てばひとひら花の舞ひ
朝寝朝酒遊芸三昧
連衆 杉本聰 西田荷夕 由井健

二十韻「白一色の」

鈴木千惠子 捌
武蔵野は白一色の春の雪
千惠子
薄紅梅の香る庭先
未悠
古本屋店主のハタキうららかに
あき子
みんなが並ぶ循環のバス
志保子
組み鐘の塔を満月横切つて
髭面市長歩むうそ寒
乾杯し後はひたすら濁酒
誘惑される甘い吐息で
衣擦れの音だけのする寡婦の閨
地球の危機も我関せずと
ナオ
すいすいと夕陽ひつぱる鴨の水脈
外堀通りカフェの大窓
抱き寄せてみればロボット悲しげに
あなたの心少しください
小夜曲のかすかに響く月涼し
観音堂へ急ぐ階段
ナウ
姉君は妹の夢を買つたとか
懐中時計カチカチと鳴る
ご無沙汰をかしこみ詫びる花便り
紙風船を高く打ち上ぐ
連衆 棚町未悠 岩崎あき子 北龍志保子

二十韻「龍の雲」

佐々木有子 捌
春空に寝そべつてゐる龍の雲
有子
休校続く土手の草萌
濤声
新社員デスク回りを整理して
香織
コンビニスナック試すいろいろ
雅子
月の下子ども神輿の写真撮る
敦子
日焼けの腕のぞく半纏
傷心の海岸通りぶつ飛ばす
ラブコメディが拾ふ伏線
ひよつとしたところから出る革財布
過疎の村より五輪入賞
ナオ
福は内鬼も内とて豆を撒き
風邪の服薬ほどほどにする
ジェラシーを隠せば胸の高なつて
秋の宿には甘き残り香
端正の月が路地裏明るくし
みゐでらはんめう潜む草叢
ナウ
酒好きがくさやの干物好きな訳
夢の島にて踊るダンサー
来し方を綴る文机花の窓
囀の中自転車を漕ぐ
連衆 小原濤声 平林香織 武井雅子 武井敦子

歌仙「練切」

近藤純子 捌
練切のくれなゐ滲む春の雪
純子
ほの咲き初むる常磐まんさく
鄭和
雛遊年長さんがお世話して
暁巳
みんなピースの写真アルバム
太郎
まん丸な月懸かり来る岬口
流れ星追ふ静かなる夜
猪道を辿り尾上の松に出で
牧を閉ざして交はす接吻
髪まとめ始発電車に手を取りて
そつとリングをはめ直す時
ティファニーで喰らふ朝食僕の夢
城下鰈雑魚に混じつて
走り梅雨堰の流れを乗りきれば
雲の彼方に目指す山並
着陸のコックピットは慌ただし
アイロン効いたワイシャツの白
花衣差す手引く手に月円か
八十八夜の数へ唄聞く
ナオ
突然に小さき胡蝶の飛び立てり
剣豪さつと刀納める
飴を買ふ子が前にゐる紙芝居
お代は観てのお帰りと謂ふ
ライオンに睨まれたのがトラウマに
冬至湯に入りほつとする時
乳房には自信があるの触つたら
妻の寝言を夫気にする
関ケ原どちらにつくか大博打
石油の価格米ロ攻め合ふ
月出でて虫の集きのなほ高し
ぶらぶら揺らす青き瓢箪
ナウ
去来忌の湖の風浪身に受けて
訪ふ人なしに弥陀の尊像
それぞれの特技生かしてボランティア
本陣跡を守る相談
石磴に歩み止めたる花吹雪
巣立ちの鳥のこぼれ去り行く
連衆 高山鄭和 島村暁巳 功刀太郎
令和四年二月十一日起首
同二十五日満尾(後半文音)