リモート連句の場
第一回猫蓑会リモート
二十韻「隠里」
平林香織 捌
- 野焼して風新しき隠里
- 美智子
- 母の十八番の蕗味噌の味
- 健
- 流氷の見学ツアーにぎやかに
- 香織
- カメラのレンズ望遠に換へ
- 智
ウ
- 競馬あつと言ふ間に通り過ぎ
- 健
- 君待つ駅の月の宵山
- 織
- 化粧濃く酔つたふりしてしなだれる
- 智
- お国訛りもご愛嬌なり
- 健
- 午後三時講義ノートのミミズ文字
- 織
- 仕事の前に瞑想の部屋
- 智
ナオ
- 冬帽子白きを踏んだ足の跡
- 健
- 狐のしつぽちらと消えゆく
- 織
- モナリザの微笑みの謎解けぬまま
- 智
- うそ寒の肌すべてあなたに
- 健
- よされ来よはりまや橋に月出る
- 智
- 夢かと思ふ鵲の声
- 織
ナウ
- 雨樋に邪魔されてゐる鯨幕
- 智
- 二歳の孫の小さき歯並び
- 織
- 花守の老樹に注ぐ大吟醸
- 健
- 喫茶去の軸掛ける麗か
- 織
連衆 聖成美智子 由井健
二十韻「飛行船」
功刀太郎 捌
- 春風に身をまかせ来る飛行船
- 太郎
- いよよ捻れのゆるむ萬作
- 了斎
- こぼれたる雛のあられを集めゐて
- 尚子
- バカラグラスでそつと乾杯
- 禎子
ウ
- イブニングドレスの肩にくちづけを
- 斎
- 褥の裾に月の影差し
- 太
- 人もなく障子立てたる俳諧寺
- 禎
- 饂飩をすする音の大きく
- 尚
- 想定外離島勤務を命じられ
- 太
- 待つてましたと習ふサーフィン
- 斎
ナオ
- お祭りの薄荷パイプをすうすうと
- 尚
- 肩車して遠く見た山
- 禎
- どかどかとでえだらぼつち大股に
- 斎
- 虫のすだきに独り飯食ふ
- 太
- 見上ぐれば雲まに消ゆる望の月
- 蝸舎
- 露に濡れたる指を触れあひ
- 禎
ナウ
- さよならを言ふならそつちからにして
- 尚
- なに余念なく鴉畑掘る
- 太
- あけて花ゆふされば花ふけて花
- 斎
- レタスを洗ふ水のなめらか
- 尚
連衆 鈴木了斎 宮川尚子 竹中禎子 岩田蝸舎
二十韻「春の潮」
近藤純子 捌
- 春の潮そつと満ちくる離宮かな
- 純子
- 鶯餅に添へるお濃茶
- 塁
- 猫の子を撫でくすぐれば甘えきて
- 未悠
- 鞄の中に画帳クレヨン
- 酔山
ウ
- 月照らす島でキャンプの兄弟
- 塁
- 芭蕉布まとふ女将ひとこと
- 純
- 片肌の白さで思ふまま落とし
- 山
- バンジージャンプやみつきになる
- 悠
- 屋上に樹々のあふるる昼休
- 純
- 健康診断結果良いてふ
- 塁
ナオ
- 鯨鍋ネギも豆腐も酒も足し
- 悠
- 里神楽へと誘ふ看板
- 山
- 初彼と親に内緒でふたり旅
- 塁
- とても爽やか君の横顔
- 純
- 円き月出れば九回裏となる
- 山
- 芸術祭に友の入選
- 悠
ナウ
- 逍遥は梲(うだつ)の並ぶ蔵の町
- あき子
- 和柄小財布お土産に買ひ
- 塁
- 摩崖仏ほほゑんでゐる花の雲
- 悠
- 児等駆け回るうららかな午後
- 山
連衆 棚町未悠 吉田酔山 竹中塁 岩崎あき子
二十韻「寒もどり」
鈴木千惠子 捌
- 寒もどり護岸工事のショベルカー
- 敦子
- 海猫渡る島の夕暮
- 全然
- 新社員上司二人に連れられて
- 美友紀
- 皆の好みのコーヒーを知る
- 千惠子
ウ
- ヘッドホン電子ピアノで弾くショパン
- 紀
- 夏の館に仮装する月
- 敦
- だまされたふりをしてゐる桜桃忌
- 紀
- 芸者風情に心ひとすぢ
- 然
- 激写するマニアの集ふ線路沿ひ
- 敦
- 立ち入り禁止札が傾き
- 然
ナオ
- 虎落笛廃棄物処理進まずに
- 仝
- 冬山登山列の粛々
- 敦
- 積年の外反母趾が痛み出し
- 聰
- 主治医に渡す部屋の合伴
- 然
- 満月に願をかけたる玉の輿
- 紀
- 目黒雅叙園色変へぬ松
- 然
ナウ
- ふるさとの新酒新米取り寄せて
- 紀
- 慰問に向かふ選手一行
- 然
- 城跡に上がる歓声花篝
- 暁巳
- たかくたかくとふらここを漕ぐ
- 執筆
連衆 武井敦子 小原全然 奥野美友紀 杉本聰 島村暁巳