令和3年2月27日(土)

第一回猫蓑会リモート

二十韻「隠里」

平林香織 捌
野焼して風新しき隠里
美智子
母の十八番の蕗味噌の味
流氷の見学ツアーにぎやかに
香織
カメラのレンズ望遠に換へ
競馬あつと言ふ間に通り過ぎ
君待つ駅の月の宵山
化粧濃く酔つたふりしてしなだれる
お国訛りもご愛嬌なり
午後三時講義ノートのミミズ文字
仕事の前に瞑想の部屋
ナオ
冬帽子白きを踏んだ足の跡
狐のしつぽちらと消えゆく
モナリザの微笑みの謎解けぬまま
うそ寒の肌すべてあなたに
よされ来よはりまや橋に月出る
夢かと思ふ鵲の声
ナウ
雨樋に邪魔されてゐる鯨幕
二歳の孫の小さき歯並び
花守の老樹に注ぐ大吟醸
喫茶去の軸掛ける麗か
連衆 聖成美智子 由井健

二十韻「飛行船」

功刀太郎 捌
春風に身をまかせ来る飛行船
太郎
いよよ捻れのゆるむ萬作
了斎
こぼれたる雛のあられを集めゐて
尚子
バカラグラスでそつと乾杯
禎子
イブニングドレスの肩にくちづけを
褥の裾に月の影差し
人もなく障子立てたる俳諧寺
饂飩をすする音の大きく
想定外離島勤務を命じられ
待つてましたと習ふサーフィン
ナオ
お祭りの薄荷パイプをすうすうと
肩車して遠く見た山
どかどかとでえだらぼつち大股に
虫のすだきに独り飯食ふ
見上ぐれば雲まに消ゆる望の月
蝸舎
露に濡れたる指を触れあひ
ナウ
さよならを言ふならそつちからにして
なに余念なく鴉畑掘る
あけて花ゆふされば花ふけて花
レタスを洗ふ水のなめらか
連衆 鈴木了斎 宮川尚子 竹中禎子 岩田蝸舎

二十韻「春の潮」

近藤純子 捌
春の潮そつと満ちくる離宮かな
純子
鶯餅に添へるお濃茶
猫の子を撫でくすぐれば甘えきて
未悠
鞄の中に画帳クレヨン
酔山
月照らす島でキャンプの兄弟
芭蕉布まとふ女将ひとこと
片肌の白さで思ふまま落とし
バンジージャンプやみつきになる
屋上に樹々のあふるる昼休
健康診断結果良いてふ
ナオ
鯨鍋ネギも豆腐も酒も足し
里神楽へと誘ふ看板
初彼と親に内緒でふたり旅
とても爽やか君の横顔
円き月出れば九回裏となる
芸術祭に友の入選
ナウ
逍遥は梲(うだつ)の並ぶ蔵の町
あき子
和柄小財布お土産に買ひ
摩崖仏ほほゑんでゐる花の雲
児等駆け回るうららかな午後
連衆 棚町未悠 吉田酔山 竹中塁 岩崎あき子

二十韻「寒もどり」

鈴木千惠子 捌
寒もどり護岸工事のショベルカー
敦子
海猫渡る島の夕暮
全然
新社員上司二人に連れられて
美友紀
皆の好みのコーヒーを知る
千惠子
ヘッドホン電子ピアノで弾くショパン
夏の館に仮装する月
だまされたふりをしてゐる桜桃忌
芸者風情に心ひとすぢ
激写するマニアの集ふ線路沿ひ
立ち入り禁止札が傾き
ナオ
虎落笛廃棄物処理進まずに
冬山登山列の粛々
積年の外反母趾が痛み出し
主治医に渡す部屋の合伴
満月に願をかけたる玉の輿
目黒雅叙園色変へぬ松
ナウ
ふるさとの新酒新米取り寄せて
慰問に向かふ選手一行
城跡に上がる歓声花篝
暁巳
たかくたかくとふらここを漕ぐ
執筆
連衆 武井敦子 小原全然 奥野美友紀 杉本聰 島村暁巳