東 明雅の連句 Q&A
付け勝ちと膝送り
連句には「付け勝ち」と「膝送り」というやり方がありますが、それぞれどんな特徴があるのでしょうか。
付け勝ちは乱吟・出勝乱吟とも言って、付ける順番があらかじめ定まっていないで、各句ごとに連衆すべてが付句を考え、それを宗匠が捌いて治定する。一巡のあとは、よい句を作ったものが何句でも採用され、付け進むやり方です。
これに対して、膝送りは一定の順序に従って付けて行くやり方で、両吟・三吟・四吟・五吟・六吟などの場合、それぞれ順序が決まっております。七吟の場合も原則的には一巡の順序をそのまま繰り返せばよいのですが、作品としての例はありません。
もともと、芭蕉時代の俳諧では五吟か六吟位が関の山で、七吟以上は滅多になかったからでありましょう。この傾向は明治・大正ごろの連句にまで続き、残っている連句もせいぜい三吟・四吟までが圧倒的です。これは昭和六年刊の「連句總覧」においても、確認される現象であります。
連句は昭和四十五年ごろから復興し、今日の隆盛に及んだのですが、このころになると、すでに膝送りのやり方を知った者もすくなくなり、また、一座の連衆の数も急に増え、六・七名が普通、それ以上の場合も多くなりました。それ故、出勝一辺倒の連句が流行するようになりました。この方法は連衆が互いに競いあい、席に活気が出る反面、初心の者は付ける機会が少ない上に、連衆は付句の早さ・珍しさ・奇抜さを競って、ろくろく前句との付味、打越からの転じを考える余裕がなくなりかねません。
これに比べて膝送りは、各自その付番が回って来た時だけ付ければよく、他人が付けている時は、静かに一巻の進行を味わう余裕が出来、深みのある付句をする事が出来ます。
また、他人と句数を競争するという雑念から解放され、出勝にくらべ静かな落ちついた雰囲気を楽しみ、さらには本当の連衆心を味わうことが出来るでしょう。ただ、先に述ベたように、八人以上の会では無理ですし、第一、自我意識の強い近代人にはあまり好まれないかも知れません。
ただ、膝送りは、連衆の各人がそれぞれ前句を捌き、さらに打越からの転じを考えて自分の付句を作らねばなりません。これはある程度連句をたしなみ、習熟した上でないと出来ないでしょう。経験・実力の乏しい者が膝送りの一座に加わると、当人も困り果てるとともに、他の連衆も迷惑して互いに興がさめてしまいます。だから、五・六人の一座で興行する時は、あらかじめこれらの事をよく考えて、膝送りか付け勝ちか決めるべきでしょう。
「猫蓑通信」第27号 平成9(1997)年4月15日刊 より