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祝と忌の連句の心得

お祝いの時、あるいは忌日に連句興行をする場合、注意しなければならないことがありましたらお教えください。

正式俳諧を興行する場合は、猫蓑で毎年四月に行なっている亀戸天神藤祭の行事と、十月に行なっている芭蕉忌の場合とを比較すれば、その違いが歴然でしょう。たとえば、懐紙もお祝いの時は紅白の水引だし、仏事は青白です。お祝いの時の端作りは「俳諧之連歌」ですが、仏事は之の宇を除いて「俳諧連歌」と書きます。その外、献花・供香にも、それぞれのやり方が違っているのは御承知の通りです。

正式俳諧ほど改まったものでなくても、亡き人の忌日に皆が集まって、追善興行をする場合があります。そのような場合には発句には故人の句を用いて、脇起りの一巻を作るのが普通ですが、そうでない場合も、あまり俗にくだけた発句ではなく、長高い不易の句を発句にすることが求められます。

追善俳諧の心得については「連句辞典」に記載があるように、「迷う」・「暗い」・「落ちる」・「罪」・「科」・「燃ゆる」・「苦しむ」などの字を用いることが禁ぜられますが、これはみな亡き人の冥福を祈り、成仏を願う気持の表現に外なりません。また、「鬼」・「幽霊」などの妖怪の類、そして「犬」などの畜生の類も嫌われますが、これは仏教の輪廻の思想の表われでありましょう。

もちろん、これらは一種の迷信でしょうが、その外に、連句(俳諧)の祖が、例の歌垣(嬥歌・男女が歌を詠みかわす行事)にあるとされ、言語には霊妙な働きがあるという言魂の信仰が今日まで残っておりますので、現代連句でも割合に忠実にこの禁忌が守られております。

同様に、たとえば新築のお祝いの連句興行の場では、「燃ゆる」・「焼くる」など「火」の噂、航海・船中の興行では、「かえる」・「沈む」・「波」・「風」などの語を出してはならぬという慣習も、古くから残っております。

「醒睡笑」という江戸時代初期の笑話本には、当時流行した連歌や俳諧に関する話が多く載せられておりますが、その中に、

ある移住(転居)の連歌の席で、

    春の日は軒端につきてまはるらん

という句を出したので、宗匠は、日は火に通じて「つきて」は不吉だから「消せ」と命ずる。執筆が「数度の直しで、これ以上は消されぬ」というと、この作者「とにかく消しなさい。またすぐつけるから」と、付け火にも通ずる失言を犯してしまった、とありますが、この話を見ても、このような禁忌のことが一般的によく知られていたことが分ります。

その他、「五体不具の噂、一座に差合ふ事思ひめぐらすべし」(三冊子)とあるのは一般的な注意ですが、追善・祝賀などの折には、一層深い心懸けが必要であります。

猫蓑通信」第7号 平成4(1992)年4月15日刊 より