Q5

丈高い句と胴切れ

丈高い句を作るコツをお教え下さい。また「胴切れ」についても教えて下さい。

丈高い句を殊更要求されるのは、第三ですし、「胴切れ」が問題になるのも第三です。第三を丈高く作るというのは、連歌時代からの伝統で、俳諧でもこの教えが忠実に守られています。

丈高い第三を作るには、まず、杉形(すぎなり)・大山(おおやま)・小山(こやま)という形を覚えること、これがコツです。

  杉形  むら雀日和定むる声立てて

これは「むら雀声立てて」と作って、そのあとで「日和定むる」という中七を入れる方法です。

  大山  秋の風鍛冶の谺の通ひ来て

これはまず「鍛冶の谺の通ひ来て」と作り、のちに上五文字「秋の風」を置く方法です。この際「秋風に」とすると、平句的になってしまいます。「秋の風」と切るところに丈高さがあらわれるのです。

  小山  落第子口笛を吹く樹によりて

これは「落第子口笛を吹く」と作って、のちに下五文字「樹によりて」を置く方法です。

このように、杉形・大山・小山の三体を用いれば、丈高い第三を作ることができます。この三体のいずれを取っても、むら雀・秋の風・落第子というように、上五文字の語尾に助詞などを用いず、他と切り離して作られています。これは第三を二句一章体に近づけ丈高くする方法であるとともに、吟声した場合にもよく聞こえるからであります。ただし、芭蕉の七部集を見ても必ずしもこの通りにはなっていませんので、無理に拘泥する必要はありません。

   碑や秋風の生む山の音            房利
    月見団子を腰にさげゆく          正江
   かりんの実藍胎(らんたい)に盛り賞づるらん  元子

   春ン月や木の間は余吾(よご)の水明り     蓼艸
    帰りし鴨に睡る鳰(にほ)鳥         時彦
   蕨餅(わらびもち)落着きの茶をすすめゐて   明雅

次に第三を丈高くする方法として説かれるのが「すみのてにはを切る」ということです。これは簡単に言ってしまえば、一句の中で、余分な助詞をなるべく省くということです。たとえば、

   月高し四阿に酔「を」冷ましゐて
   鯊釣りの人の傍「に」猫もゐて
   小面の視野の人「は」みな爽かに

鍵括弧内の助詞は省略しても意味がよく分り、また省略することで一句がすっきりします。

さらに胴切れの句を嫌うのも、丈高くする為です。胴切れとは上五・中七・下五という第三の句形と、その句の意味上の切り方が一致しない、いわゆる句割れ、句跨りの現象をおこすことです。例は次の通り。

   ざざ虫を土産(つと)に/学生戻り来て
   真昼間の水面に/鳥の騒ぎゐて
   茶柱が立てば/何やら嬉しくて

「猫蓑通信」第5号 平成3(1991)年10月15日刊 より