東 明雅の連句 Q&A
丈高い句と胴切れ
丈高い句を作るコツをお教え下さい。また「胴切れ」についても教えて下さい。
丈高い句を殊更要求されるのは、第三ですし、「胴切れ」が問題になるのも第三です。第三を丈高く作るというのは、連歌時代からの伝統で、俳諧でもこの教えが忠実に守られています。
丈高い第三を作るには、まず、杉形(すぎなり)・大山(おおやま)・小山(こやま)という形を覚えること、これがコツです。
杉形 むら雀日和定むる声立てて
これは「むら雀声立てて」と作って、そのあとで「日和定むる」という中七を入れる方法です。
大山 秋の風鍛冶の谺の通ひ来て
これはまず「鍛冶の谺の通ひ来て」と作り、のちに上五文字「秋の風」を置く方法です。この際「秋風に」とすると、平句的になってしまいます。「秋の風」と切るところに丈高さがあらわれるのです。
小山 落第子口笛を吹く樹によりて
これは「落第子口笛を吹く」と作って、のちに下五文字「樹によりて」を置く方法です。
このように、杉形・大山・小山の三体を用いれば、丈高い第三を作ることができます。この三体のいずれを取っても、むら雀・秋の風・落第子というように、上五文字の語尾に助詞などを用いず、他と切り離して作られています。これは第三を二句一章体に近づけ丈高くする方法であるとともに、吟声した場合にもよく聞こえるからであります。ただし、芭蕉の七部集を見ても必ずしもこの通りにはなっていませんので、無理に拘泥する必要はありません。
碑や秋風の生む山の音 房利
月見団子を腰にさげゆく 正江
かりんの実藍胎(らんたい)に盛り賞づるらん 元子
春ン月や木の間は余吾(よご)の水明り 蓼艸
帰りし鴨に睡る鳰(にほ)鳥 時彦
蕨餅(わらびもち)落着きの茶をすすめゐて 明雅
次に第三を丈高くする方法として説かれるのが「すみのてにはを切る」ということです。これは簡単に言ってしまえば、一句の中で、余分な助詞をなるべく省くということです。たとえば、
月高し四阿に酔「を」冷ましゐて
鯊釣りの人の傍「に」猫もゐて
小面の視野の人「は」みな爽かに
鍵括弧内の助詞は省略しても意味がよく分り、また省略することで一句がすっきりします。
さらに胴切れの句を嫌うのも、丈高くする為です。胴切れとは上五・中七・下五という第三の句形と、その句の意味上の切り方が一致しない、いわゆる句割れ、句跨りの現象をおこすことです。例は次の通り。
ざざ虫を土産(つと)に/学生戻り来て
真昼間の水面に/鳥の騒ぎゐて
茶柱が立てば/何やら嬉しくて
「猫蓑通信」第5号 平成3(1991)年10月15日刊 より