Q42

「あなたの句は俳句だ」とは

連句の座で、あなたの句は俳句だと言われることがありますが、これはどういう意味でしょうか。

俳句(発句)には一句一章のものと二句一章のものがあります(三句一章体というものもありますが、極めて稀であるため、ここでは取り上げないことにします)。

  一句一章例   道のべの木槿は馬にくはれけり
  二句一章例   草臥れて宿借る比や藤の花

芭蕉は、一句一章体については、頭からすらすらと言い下すのが上等の発句であると言い、二句一章体については、物をよく取り合わせるのを上手と言い、悪く取り合わせるのを下手というと言って、どちらのやり方も否定しませんでしたが、後者に対しては、物を取り合わせて作る時は、句も多く出来るし、速やかに詠むことが出来ると推奨しております(『去来抄』)。

ところで、この俳句十七字の中で物を取り合わせるという作業は、連句三十六句の中で、前句に付句を付け合わせるという作業に、甚だよく似ております。連句の前句は、それだけでは独立性がないので、これまた独立性の乏しい付句を待って、二つを付け合わせる事によって、芸術性の高い付合になろうとしているのであり、ここに連句が次々と続いてゆく力がひそんでいるのであります。

それ故、たとえば花前の句に対して、二句一章の花の句を付けると言うことになれば、その花の句は全く花の俳句を付けるという事になります。その事自体は特に咎められる事でもないかも知れないが、往々素晴らしい花の句を付けようということに精神を集中して、前句との付味をまったく無視した花の句を付ける可能性が生まれます。このような花の句を、これは俳句と申すのです。

これは花の句ばかりでなく、月の句の外、季語をもった長句にもおこりうる事ですから注意して下さい。

ただ、第三だけは、丈高くという事が絶対条件となっておりますので、わざわざ、大山体・小山体・杉形の作り方が伝わっておりますが、これらははっきりした切字を用いないで、二句一章体とする方法を考えたものです。

  大山   正反合天地のリズムきはやかに
  小山   落第子口笛を吹く樹によりて
  杉形   新走り強き香の鼻うちて

みな、体言の独立句を上五にすえる事によって、二句一章体を完成し、ことに落第子、新走りなどの句は季語を入れることにより、俳句となっておりますが、第三に限って脇との付味は問題にされないから、あなたの第三は俳句だとは言われないでしょう。

「猫蓑通信」第42号 平成13(2001)年1月15日刊 より